【セーラームーン】稲田豊史氏独占インタビュー

「美少女戦士セーラームーン」は現在、20周年プロジェクトとしてアニメやグッズなど、多岐にわたるメディア展開を見せる。セーラームーン展もその一環であり、主な来場者層は子供たちよりむしろアラサー世代だ。そんな人々をセーラームーンから分析した「セーラームーン世代の社会論」の著者、稲田豊史氏に話を聞いた。

 

Q1、セーラームーン展の来場者にアラサー女性を中心とする「セーラームーン世代」に加え20代前半の女性も見られるのはなぜですか?

A1、マンガとアニメの『美少女戦士セーラームーン』が放映・連載されていたのは1992年から97年ですが、ミュージカルは2005年まで続いたため、連載やアニメ放映時点でまだ視聴できる年齢に達していなかった、もしくは生まれていない世代のなかにも、ミュージカル版セーラームーンには触れている人がいます。

また、2012年以降のセーラームーン20周年ムーブメント、2013年からのミュージカル復活、およびここ数年のハロウィンにおけるセーラームーンコスプレの増加などによって、20歳前後の年代にもセーラームーンの知名度が上がったと思われます。

ただ、彼女たちの多くは、リアルタイムで原作やアニメ版に触れていないので、セーラームーン世代が作品に影響されて希求する「仕事も、女の子らしさも、恋愛も、結婚も、母性も、全部獲得したい!」といった志向性は希薄であり、ポップなキャラクターアイコンとして愛好している側面が大きいのではないでしょうか。

 

Q2、近年、女性の立場が社会的に向上していることに関してですが、セーラームーン世代、もしくは「セーラームーン」の派生である「ふたりはプリキュア」などを見て育った人たちやその周囲によるステレオタイプの構築に要因はありますか?

A2、セーラームーン世代より上の世代の女性(団塊ジュニアより上)は、「そもそも女性の社会的地位は男性より低い」ことをデフォルトとして刷り込まれて育ったので、キャリア志向のある女性は「社会に出たら、なんとかして男性と肩を並べよう、並べなければならない!」という「気負い」がありました。

しかしセーラームーン世代は、その「気負い」が小さいため、男性中心の仕事場にも比較的ナチュラルに溶け込もうとしますし、自己主張も辞さない傾向にあります。また、男性と「同じように」仕事をしたいとは考えず、女性であることを「活かした」仕事の仕方をすることに意欲的でもあり、この点は、20代の頃に「女性性を捨てなければ男と張り合えない」と考えていた団塊ジュニア以上の女性とは好対照です。

現在、実際に女性の社会的な地位が向上しているかどうかはなんともいえませんが、セーラームーン世代が社会における女性の「存在感」の向上に寄与しているとは言えるでしょう。ただ、そういった女性の存在感向上は、「政治的に正しい」ものとして社会に受け入れられているいっぽう、昭和的・旧来的な価値観を持つ男性(年齢問わず)からは「小賢しくて面倒な女」という、バッドイメージで捉えられることも多々あるのが実情です。

なお、『ふたりはプリキュア』シリーズは『セーラームーン』の派生作と言えますが、『セーラームーン』ほどは「あまねくすべての女児」が見ていた作品とは言いがたく、また1年ごとにキャラも世界観も更新されるため、視聴者である女児たちの価値観形成に与える影響は、『セーラームーン』ほどではないと考えます。

 

Q3、社会全体でうさぎのような母性の強い存在が求められているのでしょうか?

A3、「年少の女性に母性を求める」という男性の嗜好は、『セーラームーン』以前から存在しましたが、それは基本的に、一部の精神的に未熟な男性、もしくは性的嗜好が倒錯した男性の特権物でした。

しかし昨今は、拙書で「のび太系男子」と定義した3〜40代の男性層を中心に、「ダメな自分を受け入れてくれる女性」を求める幼稚な精神性が社会に蔓延しています。これは決して社会全体に共通する精神性ではありませんが、40歳前後の世代は人口ボリュームゾーンである団塊ジュニアであり、ネット掲示板などでの発言力も高く、実社会での存在感も大きいため、彼らの異性に母性を求める価値観が比較的目立っている――という側面はあるでしょう。

Q4、大学生が見直すべきセーラームーンのエピソードはありますか。

A4、『美少女戦士セーラームーンSuperS』の23話(通し話数では152話)「炎の情熱! マーズ怒りの超必殺技」では、無批判にロールモデルと同一化する行為がいかに安直な愚行かということが、火野レイ(セーラーマーズ)の口から厳しく糾弾されます。学生の皆さんが「何者か」になりたいと思ったとき、「憧れの人に近づいてフォロワーになる」だけでは意味がないということが、よく理解できる傑作回です。

また、同じく『SuperS』の33話(通し話数では160話)『大人になる夢! アマゾネスの当惑』では、敵の少女たちが、それなりの妥当性をもって「大人になる意味を見出せない」と強硬に主張します。これに対して、学生である皆さんはどういった反論ができるでしょうか?

 

 

本紙537号において、『セーラームーン世代(団塊ジュニア)より上は~』という表現がございましたが、正しくは『セーラームーン世代より上の世代の女性(団塊ジュニアより上)は~』となります。取材を快諾していただきました稲田さんを始め、多くの購読者様に誤解を与えてしまったことをここに訂正し、お詫び申し上げます。