「美女と野獣」の時代を探る

 心優しい娘ベルと野獣の愛を描いた物語『美女と野獣』。映画をはじめ今なお世界中で愛されている。今回は、この作品が生まれた背景である18世紀のフランス社会について本学文学部史学科の坂野正則准教授に話を聞いた。

 「野獣というキャラクターが産まれたのは、大西洋貿易が影響しているのではないか」と坂野准教授は語る。原作者のガブリエル=スザンヌ・ド・ヴィルヌーヴはフランス植民地のサンドマング島(現在のハイチ)でサトウキビのプランテーションを経営する家で生まれ育った。原作が執筆された当時のフランス植民地では、非白人の人間との交流も増え、キリスト教徒以外の人間との交流も活発化しはじめた。さらに、国際貿易を営む人々の間に他者への寛容の精神が芽生えはじめた時代でもあった。そのため、非キリスト教徒である人間との付き合い方や、差別への抵抗が「人でないもの」である野獣というキャラクターを生み出したのではないかという。「仮に本当に貴族が野獣になったら貴族位をはく奪されるか、国王の軍隊に捕獲され、最悪の場合処刑されることもありえたはずだ」と坂野准教授はコメントした。

 しかしながら、当時フランスでは現代では考えられないような文化も存在した。そのひとつとして、当時の家屋にはトイレはなかった。そのため、貴族は付き人に排泄物を入れる容器を持たせそこで用を足していた。さらに、風呂に入る習慣もなかったため、館や宮殿の中は悪臭がひどかったという。また、食文化に目を向けてみると、18世紀には生牡蠣が盛んに食べられたという。絵画の中に剝いた牡蠣の殻を床に投げ捨てながら食べる様子が描かれたり、『18世紀パリ生活誌』には活気あふれる牡蠣売りの様子も記されている。現代のフランスにおいても、生牡蠣はよく食べられている。当時、貴族の食事で重視されたのは「めずらしさ」で、食材の産地などにもこだわっていたという。一方で、「17世紀に貴族の反乱に加担し失脚したコンデ親王が料理を通じて国王の気を引いたように、食事は貴族と王の関係を取り持つ手段のひとつ。そのため、珍しいものがもてはやされた」と坂野准教授はコメントした。

 このように、『美女と野獣』は様々な背景や文化の中で生まれた。こういった面からも作品を鑑賞することで、より深く『美女と野獣』の世界を理解できるのではないだろうか。