第1回

21世紀型インテリジェント電子レンジは便利!その1

 

理工学部 物質生命理工学科 准教授 堀越智

 

電子レンジを使ったことない人? いた!

 「あなたは電子レンジを使ったことがありますか?」という質問に対して皆さんはどう答えますか?

 おそらく、ほとんどの方が、「持っている・使っている」と答えるのではないかと思います。筆者は過去10年以上・年10回以上の依頼講演を行ってきましたが、そのたびに「あなたは電子レンジを使ったことがありますか?とか持っていますか?」という質問を聴講者に質問してきました。特例などがなければ無駄な質問を行ってきましたが、一度だけ“使ったことがない”と手を挙げられた大学の教員(女性)がおられました。この方は非常に貴重で、日本における電子レンジの世帯普及率が約98.7%と、ほぼ全世帯が持っている家電にもかかわらず手を挙げられたからです。

 一方、海外での講演でも同じ質問をすると、場合によっては30%ぐらいの聴講者(フランスが特に多かった)が手を上げることもあり、食文化の違いによる利用率がこれほど大きく違うことに驚きます。また、ペレストロイカ以前の旧ソ連では、電子レンジを使うと高カロリーの食べ物が簡単に調理できることから、国民の成人病防止のために電子レンジの使用を禁止していたという話も聞いたことがあります。電子レンジは、食べ物を短時間で簡単に加熱できる便利な家電ですが、健康な食生活を続けるには、ある程度の不自由が必要なのかもしれません。

 

2015年に起きた最大のピンチ「江角マキコさん」

 最近、よく電子レンジの解説者としてテレビに出ることがあります。ちょうど1年くらい前に出演した、テレビ朝日の「中居正広のミになる図書館」という番組で、電子レンジを持っていない芸能人に、電子レンジの便利さと時短調理を解説して、購入する気になっていただく企画に出演しました。台本を見ると女優の「江角マキコ」さんを私が説得することになっており、事前のディレクターによる江角さんへの聞き取り調査では、江角さんが電子レンジを持っていない理由は、電子レンジで温めた食事を食べると身体が悪くなると信じているからとのことでした。いざ本番に突入し、江角さんの話をお聞きしていると、「子供のために買ってきたものではなく手造り料理を実践としている」、「作り置きしない食事を目指し、食べる分だけ作る」とのことで、温めなおし(再加熱)の必要がないので電子レンジを持っていないとのことでした。台本とは全く違うトークに、むしろ素晴らしいお母さんだと絶賛すべきでしたが、番組の構成上、自分がこの人に電子レンジを買わせるにはどう説明したら?と内心ドキドキ()で最大のピンチです。結局、「野菜を電子レンジで調理するとビタミンが逃げにくい」とか、「菌を殺菌する力がある」などのよくある“うんちく話”をし、その場をどうにか切り抜けることができました。

 電子レンジはせっかちな日本人にはうってつけな家電と言われてきたように、その役割は「解凍」や「温め直し」が中心であり、調理に使われることはほとんど無いようです。忙しい主婦の味方で有る一方、スローライフを楽しむ人には不要な家電なのかもしれません。

 

電子レンジの歴史

 電子レンジは携帯電話や無線LANなどの電波として使われているマイクロ波という電磁波エネルギーを利用しています。電子レンジの販売の切っ掛けには、あるアメリカ人のセレンディピティ(偶察力)が関係しているといわれています。米国レイセオン社のレーダー技師であったパーシー L. スペンサーが、レーダーの調整中にポケットの中のピーナッツ・クラスター・バーが溶けたことにヒントを得て、レーダーで使われているマイクロ波で食べ物を温めることができることに気が付き、1949年に第1号の電子レンジの特許が取得されました。戦中の日本でもレーダーを開発していた研究者は、実験機械のそばにサツマイモを置いておき、実験終了後に焼き芋を食べていたという記録があります。昔からマイクロ波を食品にあてると、加熱が進むことは経験的に分かっていたようです。

 

電子レンジの未来は?

 その後、日本では1961年に「レーダーレンジ」という名前で業務用レンジが販売されました。しかし、価格が高価で、さらに和食文化にうまく溶け込めなかったため、ほとんど売れなかったようです。この状況を一変する事柄が1964年に起きました。当時、開業された新幹線の食堂車に電子レンジが採用され(図1)、「火を使わずスピード加熱する調理器具」として新幹線のPRの一環として世に広められました。その後、日本企業の努力で低価格な家庭用電子レンジが世界に向け販売され、また日本の食文化が核家族化と個食化に変化したため、電子レンジの普及率が著しく向上しました。さらに、オーブンやスチーム付の電子レンジも販売され、現在の驚異的な普及台数になりました。しかし、その技術革新はほとんど止まり、価格競争のステージに突入してしまったため、日本企業の苦戦が続いています。私たちは複数の企業とチームジャパンを結成し、21世紀型インテリジェント電子レンジの開発を行い、誰でも持っている家電から、食文化を一変するような新しい電子レンジの開発を行っています(次号で紹介)。また、この技術は新素材の合成や植物育成においても役に立ちます(最終号で紹介)

電子レンジ 上智新聞編集局

図1 新幹線で使われていた冷蔵庫のように大きい当時の電子レンジ (現在でも交通科学博物館で見ることができます)