第2回

21世紀型インテリジェント電子レンジは便利!その2

 

理工学部 物質生命理工学科 准教授 堀越智

 

もし好きなところだけ温められたら・・・

 電子レンジは便利な調理器具です。四角い箱に入れて「温め」ボタンを押せば数十秒後には食べ物が温まります。ガスコンロではこうはいきません。また、火を使わないこということは火事の心配もありません。作り置きしておいた食事でも、あっという間に温めなおしができる電子レンジは、まさに忙しい主婦の味方です。

 もし、電子レンジに入れた食べ物を「部分的に好きな温度で繊細に短時間で加熱」できるとしたら、あなたならどんな食べ物をどんなふうに温めたいですか?私たちは、そんな未来のインテリジェント電子レンジを企業と協力して開発しており、今回はその紹介を行います。その前に、まずは電子レンジの歴史から始めましょう。

 

電子レンジってだれが作ったの?

電波の一種であるマイクロ波は通信やレーダーのための情報媒体として使用されてきました。ある時、アメリカの軍需製品メーカーのレイセオン社の技師であるパーシー・スペンサーは、レーダー実験中にポケットの中のチョコバーが溶けているのに気づき、電波で物が温められる「食品加熱」への応用を思いつきました。この話はセレンディピティ(偶察力)の例としてテレビなどで取り上げられるので聞いたことがある方もいると思います。その後、レイセオン社は世界初の電子レンジ(レーダーレンジ)の販売を開始しました。実は、日本でも戦時中に旧日本海軍の島田実験所でレーダーの実験を行うときは、「よくサツマイモを装置の近くに置いて、焼き芋を作った」という記録が残っており、この分野の研究者や技術者はマイクロ波で食品加熱ができることを経験的に知っていたようです。その後、日本では国産第一号の電子レンジが1962年頃に業務用として発売されましたが、初期電子レンジの価格が125万円と高価で、その使用はホテルやドライブインに限定されていたようです。しかし、新幹線の開業に伴い食堂車に装備されたことから、そのスピード加熱ぶりが宣伝され、一般に普及する切っ掛けとなり、それに合わせて安価な家庭用電子レンジも販売(1965)されました。特に、人々の食生活が和食から欧米食に移り変わり、核家族化と個食化が進展した70年代後半頃から販売台数は増加しました。近年では冷蔵庫や洗濯機に並ぶ代表的な家庭となり、総務省統計局の調べでは世帯普及率が97.4%に達しています

 電子レンジの性能は年々進化を続けており、様々な機能が付加されています。しかし、それらはスチームや熱風などの機能に対するもので、電子レンジ本来のマイクロ波加熱技術はほとんど進化していません。このままでは、温め方にも個性を求める昨今の食文化に、電子レンジが乗り遅れてしまいます。そこで、無線LANやスマートフォンで使われているマイクロ波技術を電子レンジに取り入れた、全く新しい電子レンジを作りました。ところで、何がインテリジェントなのでしょうか?

 

あなたのお好みをかなえます

インテリジェント電子レンジと普通の電子レンジは何が違うのでしょうか?例えば、普通の電子レンジでコンビニのお弁当を温めると、お弁当全体が温まります。このため、お弁当の中には生野菜やお刺身などを入れることができません。一方、インテリジェント電子レンジではお弁当の好きなところを指定した温度で温めることができます。

 

インテリジェント電子レンジの使い方

1)電子レンジと自分のスマートフォンをつなぐ。

2)お弁当を電子レンジに入れる

3スマートフォン画面に映し出された、庫内の食材の画像の中で、加熱範囲を指定し、温度を設定する(下図イメージ)。

4)スタートを押す

 例えば、ごはんだけを50℃に加熱するように電子レンジへ部分加熱の指示をすると、その温度になるように電子レンジが考えます。その結果、サーモグラフィーの色変化から分かるように(下図)、それ以外の食材の温度は室温のままで、ご飯だけが加熱されます。わかり易く実験を行うために、極端な部分加熱を行いましたが、加熱したい部分だけを選択的に加熱できることから、時短加熱や消エネ効果は抜群です。

 

 

 また、このインテリジェント電子レンジの繊細加熱機能を使うことで、食べごろアイスクリームもできます。冷凍庫から出したばかりのアイスクリームは固すぎてスプーン(マイナス7.6)がなかなか通りません。温度を設定してスタートを押すことで、マイナス7.6のアイスクリームが15秒後にはマイナス2.3に加熱されます。スプーンがすんなり入る食べごろで、クリーミーな食感を電子レンジで実現できます。このような解凍は、お刺身のような生鮮食品の食べごろ解凍を短時間で行うことができます。

 

部分加熱と繊細加熱のハイブリット加熱

以前、お寿司屋さんに放射温度計を持って行き、注文した海鮮丼の温度を測りました。ご主人の怪訝な顔をよそに測定を行うと、ご飯は10強の温度で、海鮮具材は3くらいでした。海鮮丼のような異なった食材が一か所に盛り付けられ、さらに繊細に加熱をしなければならない場合、部分加熱を繊細に行わなければなりません。実際に、模擬的な海鮮丼を作り冷蔵庫で1時間冷やすと、全体が約1程度に冷却されました(下図)。そこでごはんを10に、海鮮具材を3になるように電子レンジに指示を出すと、海鮮具材はあまり温まることなく、ご飯を適温に調整できることに成功しました。

 

 まだまだ改良の余地がある電子レンジですが、もしどこかの家電メーカーからこの電子レンジが販売されれば、それに合わせてアイスクリーム付きお弁当も店頭に並ぶかもしれませんね。

 

最後に

電子レンジの基本概念は、スペンサーが商品化した時代から大きく変わっていません。そのため電子レンジの性能に合わせて、食品や容器の規格が決められてきました。しかし、電子レンジ元年から70年が経とうとしている現在では、食の新しい文化がスタートしようとしており、それに合わせて電子レンジも進化できれば、「食の新文化」が始まると思います。

次号は、マイクロ波を化学合成や植物育成を革新させる研究を紹介します。