記者がゆく 今年は近くでお月見を

 特別な日でなくとも、月はいつも私たちの頭上にある。地球唯一の衛星であり、人類が地球外でただ一つ降り立った天体だ。しかし、地球と月を隔てる距離は約38万km。私たちはそれを遠くから眺めることしかできない。もっと月を間近に見ることができれば、いつもとは違う月見ができるかもしれない――そんな考えを抱いた記者は、月を求めて九州へ向かった。

 

 福岡県北九州市にある宇宙を題材にしたテーマパーク、スペースワールド。日本国内では数少ない本物の月の石を常設展示している。開園時よりNASAから月の石のサンプルや実際に使用された宇宙船を借り受けており、園内のアトラクションの一つとして展示している。記者は8月15日午後、スペースワールドに赴いた。JR九州・鹿児島本線「スペースワールド駅」で下車して徒歩5分、チケット売り場で受け取ったマップを頼りに、園の西端にある「宇宙博物館」に向かう。

 

 博物館にはアポロ計画で使用した月面車の実寸大レプリカや、実物の宇宙服や宇宙食、スペースシャトルのメインエンジンの実物大模型が展示されており圧巻の光景。中でもひときわ目を引くのが、独特な円錐形をしたアポロカプセルだ。カプセルとは宇宙船において宇宙飛行士が月への行き帰りで生活をしていた居住スペースのこと。この狭い空間で任務を遂行しつつ宇宙での生活をしたというから、当時の宇宙開発の苦労がしのばれる。アポロ計画は困難な開発プロジェクトだっただけに当時の市民の期待も高く、館内に展示されている当時の新聞記事や記念切手(※)からは、月面着地に高揚する飛行士や米国民の様子が浮かんでくる。

 

 しかし、館内を全て回っても肝心の月の石は見当たらない。マップを再確認したところ、月の石の展示場所は博物館ではなく、園内の別の建物。月の石を見るために、博物館を後にした。

※記念切手は同館内の「アストレスタ」という建物に展示されている。

 

 月の石は入口近くの「アストレスタ」という建物の2階に展示されていた。まずは月の石と同じブースに展示されていた隕石を見てみる。1776年にメキシコで発見された42kgの鉄隕石だ。「トルカ鉄隕石」と解説が掲げられているこの隕石は、地球の誕生とほぼ同時期の45億年前に誕生したという。実際に触ることができ、表面はスベスベと磨かれた石のような感触だ。持ち上げようと試みたが、予想以上に重く、持ち上げることはできなかった。

 

 いよいよ今回のお目当てである月の石と対面する。軽石のようにゴツゴツとしているその様はまさに「月の石」といった具合だ。夜空に見上げる月と同じく、明るい灰色をしていた。大きさは5cmほどで重さ176グラム、1969年11月にアポロ12号が持ち帰ったものだ。32億年前に隕石の衝突によって噴き出したマグマから生まれた玄武岩だという。採取地については解説がなかったが、アポロ12号の着陸地点付近であることから「嵐の海」と呼ばれる月の表面に見える白っぽい地点にあったものだと思われる。石の表面に開いている無数の穴は、それぞれがこの石に塵が衝突してできた極小クレーターだという。小さな石ころにも、月面の過酷な環境の片鱗が伺えた。

NASAは世界の同盟各国に月の石を貸し出しているものの、アジアで月の石の貸与を受けているのは日本とフィリピンの2国のみ。中でもスペースワールドに展示されている石は日本国内で最大のものだ(※)。

 

 スペースワールドは経営の悪化により、今年(2017年)の12月31日に閉園が決まっている。閉園後、宇宙開発の遺品や月の石がどうなるのかは未だ公表されていないが、月の石やアポロカプセルなど宇宙開発の遺跡は身近に宇宙への浪漫がかき立てられるスポットだけに、公開がなくなるようなことがあれば残念だ。確実に日本最大の月の石を間近でみることのできる今年の秋は、福岡でいつもと違う「月見」をしてみてはいかがだろうか。

※日本ではスペースワールドの他に、上野の国立科学博物館に展示されている。